チョコレイト交響曲

 剥き出しの耳はすっかり冷たくなり、吐く息は白い。予定分の聞き込みも終えたしホット珈琲でも買って職場に戻ろう、とセティーは前を通りかかったカフェに入店する。
 レジ前には二人の先客が並んでおり、女性がレジカウンター付近に設置された電光掲示板を指差した。期間限定の宣伝広告のようで、ハートマークを基調としたデザインで彩られ、中心にはチョコレートケーキとホットココアの写真画像が添えられている。広告の上部には可愛らしく丸みを帯びたフォントでハッピーバレンタインと書かれていた。
 恋人や意中の相手にチョコレートを贈ることで愛を伝える行事。もうそんな時期か、と他人事のように考えていると、店員から順番が来たことを告げられる。
 
 ******
 
 KMSシティでバレンタインフェアが開催されるそうですよ。
 めずらしく唐突な、クロックの情報提供にセティーは生返事をし、明日の捜査会議の資料作成を進めていたが、行かないんですかと重ねられた問いでようやく手を止めた。
「もしかして今回の参考人が来訪予定なのか?」
「いえ、違いますが」
 肉声とは異なり、機械音声に感情は宿らない。しかし、クロックの声は明らかに呆れの色を灯していた。隣のレトロもアームを上下に動かし、どうやら球体ポッド流の肩を竦めるポーズらしい。
「二人して何なんだ。はっきり言ってくれ」
「バレンタインだからチョコレート買わないのかな〜って」
「大勢の人間が集結する場所へわざわざ出向くほど俺がチョコレート好きではないことくらい、お前たちなら知っているだろう」
 すると、レトロとクロックは示し合わせたようにゆっくりとクラゲのように浮遊し始める。何かを諦めたのだろうが、事件と関係がないのであれば気にすることはないと判断したセティーが業務の続きをしていると、突然突風が吹いたかと思うや否や、赤い飛行物体が姿を現した。
「セティーく〜んッ! 今年のバレンタインはどんなチョコがいいっ?」
「職場には来るなと言ったはずだよな、マカロン」
 彗星のごとく飛来した物体はもうひとりの相棒、マカロンだった。セティーのひと睨みに懲りることなく、赤い機体をせわしなく旋回させる。
「この時期、セティーくんに変な虫がつかないか心配で心配で……。だから釘刺しも兼ねて……、ねッ♡」
 セティーとマカロンのやり取りに、レトロとクロックが小声で会話をする。
「……もしかして、マカロン知らないの? ジェイドのこと」
「伝えるタイミングを探り続け、今に至るそうです」
「その前にバレたらエラいことになっちゃうよ〜……。たしか過去の恋人とも色々あったって言ってなかった?」
「デート尾行、突入が数十件ほど」
「ありゃりゃ〜。トラブル確定だね。ご愁傷サマ」
 心配する二人を他所に、マカロンはぐいぐいとセティーに詰め寄る。
「ちなみに確認なんだけど、今回のバレンタインは誰にも渡さないよねー。そもそも、セティーくんって今はフリーだよね?」
「……」
 十秒経過しても開かれない口に一つの推論を導き出したマカロンは、記録されたセティーの交流履歴を即座に閲覧、そして不自然にロックが掛けられている一つの項目を発見する。
「ねえ、なんでコイツだけロック掛かってるの」
「俺にもプライバシーがある」
「交流履歴のトップ3に入ってる。職場の人間? いや、であれば交流数が多くなるのは当然で、ロックを掛けると逆に不自然になっちゃうから意味ない。捜査対象者も同様の理由で除外。となれば仕事以外の交流。そう、日常生活。生活を共にしているから交流数が自ずと多くなる。つまり、セティーくんは今、どこぞの誰かと同棲している」
 分析を終えたマカロンは音を置き去りに一直線に一人走り去っていった。向かう先は分かりきっている。ひと仕事増えたな、とセティーは席から立ち上がった。
「追いかけますか」
「ひとまず強制シャットダウンで対処する。生活監視ログにジャミングを施しているとはいえ、無許可の私的閲覧は規則違反だからな。目を覚ました後に話をする」
 すっかりぬるくなった珈琲を飲み干し、ゴミ箱へ容器を捨てる。
「早く伝えるべきだったと思われます」
「たしかに、石橋を叩きすぎたか」
「叩きすぎてもうボロボロに崩壊しちゃったよ〜」
「二人には修繕作業の協力を頼む。あとチョコレート選びも」
「ようやく気づいた〜?」
「お前たちのおかげだな。マカロンも」
「マカロンどのにも贈り物が必要ですね」
 セティーの笑顔が一番喜ぶんじゃない? とのレトロからの提案に、おそらく笑顔を向けたら最後、優に千枚は超えるほど写真を撮りまくるのではとのクロックの返答に、セティーは少し頭が痛くなった。
 
 ******
 
 セティーの人生において、バレンタインに縁がないというわけではなかった。むしろその逆だった。特に交流のない職場の同僚からも渡されることはめずらしくもなく、その中には義理に混ざって本命らしきチョコレートももちろんあった。
 ただ、行事ごとに対して元々興味が薄いゆえ、バレンタインに対してはチョコレートが取り交わされるイベントとしての認識以上のものはなく、チョコレートに秘められた恋慕の類に気がつくのはセティーにとって難易度が高く、それは交際中の相手に対しても同様だったので、鈍さと価値観の違いが明らかとなって別れを告げられるイベントでもあった。過去の恋人から贈られた手作りのチョコレートを「仕事中の糖分補給にちょうどいい」と言って振られ、二の舞にはなるものかと別の恋人に今度は自分から贈り物をした際は、チョコレートではなく実用品がベストだと推測し、「食べ物のような一瞬で消えるものよりも、持続的に筋弛緩効果がある物のほうががきみのためだと思った」と肩凝り解消マッサージ機器を渡した結果、やはり破局に至ったという苦々しい思い出がある。
 
「実用性は何よりも大事だと思ったんだが」
 マカロン襲撃から後日、セティーはKMSシティのバレンタインフェアを訪れていた。
 道中、過去を振り返っているとバレンタインの時期に破局する確率が高いことに気がついたセティーは、一緒に来ていたレトロとクロックにそのことを共有すると、今更気がついたのかと言わんばかりに機械音声のため息を吐かれた。
「恋の祭典に実用とか効率とか、エルジオンからイージアくらいかけ離れた概念を持ち込むの、セティーくらいしかいないと思うよ」
「チョコレートではなくても、せめてマフラーとか手袋とか選んでいれば挽回の余地はあったのですが」
「その時はまだ判断材料が足りなかったんだ。あと半年猶予があれば好みを分析できた」
「バレンタインってそういう推理イベントだったっけ……」
「反省を踏まえ、今回は策を練ってきた。これでバレンタインは完璧だ」
「ねえ、クロック。警告アラームがボクの中で鳴り響いてきたよ」
「奇遇ですねポンコツ。私もです」  
 後ろでこそこそと会話をするレトロとクロックを引き連れ、セティーは催事場に向かう。
  
 フロアに足を踏み入れた途端、空気が変わった。
 熱気をはらんだ高揚感が催事場を覆い尽くし、各所の売り場前ではショーケースに行儀よく陳列されたチョコレートを品定める客で埋め尽くされている。どの売り場も魅力的ではあるが、興味に引きずられるままふらつくのは得策ではない。事前に候補を絞ることでタイムロスを減らし、確実にターゲットを手に入れる。まずはあそこの店だ、とセティーは相棒のポッドたちを引き連れ、中心部に位置する売り場へ向かう。
 今回初出展だというこの店はウイスキーボンボンが売りで、試食にと勧められるまま受け取ったボンボンを指でつまみ、天井の照明へ照らせば艶然と光沢を放つ。口に運び、歯で割ればやわらかく砕ける食感。とろりと粘性のあるシロップがアルコールを伴って舌に広がる。芳醇な風味は自分好みだが、果たしてあいつはどうだろうかと咀嚼しながら想像する。うまい。初めの言葉は決まっている。出されたものは大抵何でも口にするし、その反応も一定だ。
 このフロアにはまだ他の店がある。折角の機会だ、最善を尽くそう。セティーはボンボンを飲み込み、店員に礼を言ってひとまず立ち寄った売り場を離れる。
「どこにするかはまだ決めていないんだね」
「絞り込んだ候補の中から実際に味を確認して、最終検討を行う」  
「うーん、なんかカチコチで仕事っぽい。まあいいや。次はあの店なんてどーお?」
「出店常連店か。であれば手堅いな」
「あれ、セティーさん?」
 会場の隅へ移り、出店のラインナップを吟味するセティーに声が掛けられる。振り返ればジェイドの妹であるサキが驚いた様子で立っていた。 
「セティーさんも来られていたんですね」
「奇遇だな。サキくんも誰かに贈るのかい?」
「はい。友達と兄さんと……、あと自分に対しても」
 はにかむ笑顔を共に、頬に赤みが滲む。よほどチョコレートが好きなのだろう。同じ兄妹であれば味覚も似ているかもしれない。そう考えたセティーはジェイドの好みについて尋ねる。
「俺もジェイドにチョコレートを贈りたいんだが、どういう種類が好みかわかるかな」
 うーん、とサキは困ったように唸る。
「実は、私も悩んでいたんです。兄は好き嫌いなく何でも食べるから意外と難しくて」
「やはりそうか。どのみちこのフローチャートは結局使えそうにないな」
「もしかしてそれは自作ですか?」
 サキはセティーの端末パッドの画面を指差す。そこには、質問に沿っておすすめのチョコレートや店を提案した図があった。「策ってコレ? もはや仕事だよ。セティーってばホントにマジメだな〜」「何事にも真剣なのがセティーの美点です。いささか焦点がズレている気もしますが」とレトロとクロックのやりとりをセティーはとりあえず無視することにした。
「作成自体が目的になってしまって、本人がこのチャートを辿る前提がすっかり頭から抜け落ちてしまってね。せっかくだ、サキくんもやってみてくれ」
「いいんですか?」
「俺の労力が報われる」
 では遠慮なく、とサキはイエス・ノー形式で回答していく。その結果、SNSで最近話題になっている個人経営の店が提案された。チョコレートの味自体もさることながら、なによりも宝石箱のように装飾された缶が好評を博していた。
「サキくんはパッケージにもこだわるタイプなのか。参考になるよ」
「可愛い缶とか小箱は集めちゃいますね。チャート結果に出てきたお店も素敵です」
 さっそく買いに行ってきます、と頭を下げて売り場へ向かうサキの後ろ姿を眺めていると、見知らぬ女性から声を掛けられる。
「もし失礼でなければ、私もそのフローチャートを試させてもらってもいいですか?」
 先ほどのサキのやりとりを耳にしていたのか、尋ねてきた女性の他にもセティーの周りに人だかりができていた。
「ええ、構いませんよ」
「ありがとうございます! 実は彼に贈るにあたってアドバイスもお願いしたくて……」
「ぼ、ぼくも好きな人へ渡したいんですけど何がいいのかてんでわからなくて」
「では順番にどうぞ」
 この時のセティーはフローチャート作りのため深夜遅くまで起きていたせいで寝不足であり、つまるところ正常な判断ができていなかった。どことなく苦手意識を抱いていたバレンタインだが、挽回できているぞという誇らしい気持ちでもあった。事態に気がついたのは、自分の前に並ぶ行列が無くなり、あらためて催事場を見渡せる状況になってからであった。
 
「人だかりが出来ていたのでてっきり人気のお店かと思っていたら、セティーさんだったんですね」
 数時間後。その手に紙袋を下げてふたたび現れたサキに、セティーが手を振る。
「つい流れでね」
「みんなセティーのフローチャートとアドバイスに満足していたし、これを機にチョコレートコンサルタントに転職してもいいかもね〜」
「無責任なこと言わなでください、ポンコツ。エルジオンの治安はどうなるんですか」
「ふふ、でもセティーさんのおかげで本当に助かりました。あれ、セティーさんのお買い物は?」
「目当てのものは無くなってしまった。すっかり」
「せ、セティーさん……」
 首を横に振ったセティーに、サキは絶句する。フローチャートの盛況ぶりに気を良くし、本来の目的を思い出した頃にはすべてが終わっていた。
「今年は諦めるか。どのみち、あいつならたくさん貰うだろうしな……」
「たしかに、兄さんに渡してほしいと学生時代もよく頼まれました」
「チョコレートに合う珈琲豆でも買うかな。そのほうが日持ちもしそうだ」
 であれば、わざわざチョコレートにこだわる必要もないのだ、と自分を納得させ、別の階にあるグローサリー売り場の存在を思い出す。珈琲豆のストックはまだ大量にあるが、たくさんあっても困るものではない。算段をつけるセティーに、サキが提案する。 
「あの、手作りはいかがでしょう。材料ならどこでも売っていますし」
 手作り。セティーは目をしばたかせる。
 セティーの中でバレンタインといえば、既製品を贈り合うイメージだったが、存外悪くない響きだった。 
「それはいい考えだ。俺では思いつかなかった」
 ありがとう、と伝えればサキは照れを押し隠すようにはにかむ。その控えめな笑顔にどことなく彼女の兄の面影を感じ、セティーはどことなく面映い気持ちになる。 
 
 ******
 
 セティーがKMSシティのバレンタインフェアに訪れていた頃、ジェイドもエルジオンの商業施設で買い物をしていた。  
「あら、ここで生徒に会うなんてめずらしいわね」
 聞き馴染みのある声に振り返れば、そこには眼鏡姿の女性と、桃色の髪を揺らす女性の姿があった。
「もう生徒ではない。元生徒だ」
 ジェイドの愛想のない返しに気を害することもなく、IDAスクール時代の教師であったシェリーヌは眼鏡を掛け直す。
「教師からしたら卒業しても生徒には変わりないわ。どう? 元気にやっているの」
「心配されるほどではない。適度にやっている」
「なら良いけれど。そうそう、シャノンには会ったことある? 彼女もアルドの仲間よ」
「あいつは一体仲間が何人いるんだ」 
 シェリーヌの隣に立っていたシャノンがはじめましてと微笑む。
「ジェイドくんもチョコレートを買いに来たのかしら?」
「イヤーーッ! やっぱりアイツ泥棒猫じゃんッ!」
 ジェイドの手に下げられた縦長の袋にシャノンの目線が向く。と同時に、遠くから悲鳴のような機械音声が聞こえた。
「不審者ね。警備ロボットは何をしているのかしら」
 即座に腰に巻きつけた縄へ手を掛けるシェリーヌを制し、シャノンがジェイドに尋ねる。
「あそこのキュートな赤いレディはジェイドくんのお知り合い?」
 音声の先には、赤色の機体のポッドが様子を窺うように隠れていた。
「いや、違うな。何だあれは」
 白色と黒色ならまだしも、と続けようとするとシェリーヌが声を上げる。
「見覚えがあるわ。たしかセティー捜査官の支援ポッドじゃなかったかしら」
 突如出た恋人の名前に、ジェイドの鼓動が跳ねる。すると、赤色のポッドの目がギラリと光った。
「あの尋常じゃない様子、貴方に用があるみたいね」
「まったく身に覚えはないんだが」
「ねえ、そこのあなた。私たちと一緒にお話ししましょうよ」
 剥き出しの敵意に動じることなくシャノンが手を振った。すると、渋々といった様子で赤い機体のポッドが物陰から現れ、三人に近づく。
「言っとくけど、別に馴れ合いなんてするつもりないもんね。特にそこの無愛想な男。泥棒猫。不届者」
 マカロンと名乗るそのポッドは、不機嫌を隠さない態度でアームを振り回す。
「……俺のことか?」
「あんた以外他に誰がいるのよ。数年前、ウチがラムダ区画でメンテ中に、セティーくんとツーリングしてたってこと、こっちは知ってんだからね。しらばっくれても無駄だしー?」
「ツーリングデートなんて、とってもロマンチックで素敵ね!」
「アタシは後日確認したわよ。もちろん、生活指導の名目でね」
「シェリーヌさん、生徒の恋愛事情まで口を出すのは行き過ぎじゃないかしら?」 
「過度に逸脱しなければ教師側としては何も言わないのだけれど、彼は当時未成年だったし、そもそも授業もサボり気味なのに恋人のバイクに後ろ乗りしてデートだなんて随分と余裕なのね、とは伝えたわ」
「昔のことを持ち出さないでくれ」
「ひとまず無事に卒業できてよかったわ!」
「ちょっと、ウチのことムシしないでくれるッ?[#「?」は縦中横]」 
 すっかり話が盛り上がる様子に、マカロンがふるふると機体を揺らして戦慄く。 
「ウチが不在の間、まさか同棲までしてたなんて……ッ。そもそも、その時にウチがOSモードになったバイクをセティーくんが選んでたら、ゼッタイゼッタイあんたのこと乗せなかったのに……ッ。今度は凍結プログラムを即効でダウンさせてやるんだからッ」
「あら、二人は同棲しているのね」 
「マカロン。貴女は他人のポッドだしアタシの生徒ではないから過ぎたことは言えないけれど、プライバシーくらいは持ち合わせなさい。喋る度に個人情報がダダ漏れよ」
 ため息を吐くシェリーヌを尻目に、マカロンはジェイドの手に下げられた紙袋を検分する。
「ふ〜ん。チョコレートじゃなくてワイン選んだってワケか。ふ〜ん」
「そこのワイン美味しいわよね。チョコレートにも合うわよ」
 店員にもそう勧められた、とジェイドは頷く。 
「最初はチョコレートを考えていたが、あいつのことだ。当日になればうんざりするほどの数を貰っているだろうと思ってな。だから酒にした」
「良いチョイスだと思うわ」
 でも、とシャノンは豊かな睫毛を揺らす。計算された美しい曲線を描く睫毛に縁取られた目がジェイドに向いた。 
「チョコレートも渡したらどうかしら。大好きな人からの贈り物って、ひときわ嬉しいものだから」
「他にたくさん貰っていてもか?」
「ええ」
 たった二文字だったが、そこにはゆるぎない芯の強さが込められていた。シャノンの言葉はジェイドの心に染み渡り、次に取るべき行動を自ずと定めた。
「……どんなチョコレートが喜ぶだろうか」
 頭を悩ますジェイドに、あんたってその程度? とマカロンが煽る。 
「ウチは知ってるけどねー。セティーくんの好み、嫌いなモノ、どっちでもないもの、そのすべてが。セティーくん検定一級だから」
「じゃあマカロン、貴女がアドバイスしてあげなさい」
「ハア〜? なんでわざわざ敵に塩を送るようなマネしなきゃならないワケ〜?」
「好きな人の顔を曇らせるのは本意じゃないでしょ。貴女とジェイドくんが協力したら、セティー捜査官もきっと喜ぶはずよ」
 不満を物語るように勢いよく旋回していたマカロンの動きが止まる。
「……ホント?」
「シェリーヌさんの言うとおり、自分の大切な人同士が仲良くしていたら心が温かくなるものね」
「……ま、仲良くなる気はサラサラ無いけど。一時的な共闘? だったらしてあげてもいいかもね〜」
 ふんぞり返るマカロンに、ジェイドは向き合う。
「俺にも教えてくれ、マカロンが知るあいつのことを」
「フン……。ジェイドも出し惜しみなく言ってよ! ホラ、行くからねッ」
 マカロンがジェイドの背中を叩き、二人は目的の場所へと向かう。シェリーヌとシャノンはその後ろ姿に手を大きく振った。エールを送るように。

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